八重山諸島の島々では、島に自生している植物を活用し、暮らしの中で使われる道具を手作りしてきた歴史があります。その道具は「民具」と呼ばれ、その制作過程には、先人たちの暮らしの知恵や昔からの手業が受け継がれています。
現代では、自然に還る環境に優しい商品としても注目され、若手の民具作家の活動も少しずつ増えてきています。
今回訪ねたのは、石垣島の北部にアトリエを構える「民具なかぎり」の中桐夫妻です。
中桐夫妻は、民具に魅せられ家族で石垣島に移住、制作技術を島人から学びながら民具制作を行っています。
中桐深雪さんが初めて民具づくりに触れたのは約8年前、長女がお腹にいた頃です。島人につくりかたを教わりながら赤ちゃんを寝かせる月桃の籠を制作しました。
島人が語る民具の背景に広がる物語や、近所に暮らすオジイやオバアから聞く道具にまつわる昔の話に惹きつけられたと話す潤一さん。そこには先代の技術とそれを繋げてきた作り手の誇りのようなものを感じるそうです。
「民具は、草で編んでいるから時間が経てば自然にかえってしまいます。そのため、昔のものは残りません。もしその物の作り手がいなくなってしまえば、その道具も技術も消えてしまいます。昔からの技術を受け継ぎ作り続けていくことの大切さを実感しています」と話す中桐夫妻。
月桃
ショウガ科の植物月桃の葉は、健康茶にして飲まれたり、防虫や抗菌効果を利用して防虫剤や消臭剤として使われたり、爽やかな香りは、鎮静効果のある芳香剤として使用されたりています。
アダン
タコノキ科のアダンは、亜熱帯から熱帯の海岸近くに生育し、非常に密集した群落を作ることから、防潮林・防風林・砂防林としても利用され、また観賞用に庭園などに栽培されることもあります。
クバ
ヤシ科の植物クバ(ビロウ)は九州を北限とし、台湾や中国の南部にまで分布する植物で、一番の自生地は琉球諸島だそうです。その葉は、建材として屋根や壁に用いられることも。 また柄杓(ひしゃく)や釣瓶(つるべ)、蓑笠(みのかさ)、など様々に用いられます。
「民具なかぎり」が作る作品には、昔ながらの民具にほんの少し現代の暮らしに寄り添うような使いやすさがプラスされています。先人から受け継いだ技術を上書きしてしまうようなデザインではなく、昔からある民具のよさをそのままに、現代の暮らしの中でも違和感なく使える作品です。
「八重山の伝統民具を研究、製作するとともに、今の暮らしに寄り添った新しい民具や、ライフスタイルを華やかにする民具を提案できたらと思います。また、草編み文化を未来につなぐお手伝いを続けて行きたいです」
プロフィール
中桐潤一(なかぎり じゅんいち)
中桐深雪(なかぎり みゆき)
家族で石垣島に移住して、北部の豊かな素材をいただき、夫婦で民具を作っています。
伝統的な八重山民具と、いまの生活に寄り添った、使いやすい民具を提案しています。