島のものIsland Products

自然豊かな八重山では、リュウキュウマツ、テリハボク、センダンなど60種類以上もの樹木が「島材」として活用されてきました。昔は、個性的な島材の特徴を活かして、建物の建築材、農具などの柄、下駄の材料、タンスなどの家具の材料、線香の材料やエーク(船のオール)などに形を変え、暮らしを豊かに縁どっていました。長い歴史の中で島人に愛され続けた島材も、現在は使用される量が減っているといいます。

今ではあまり使われなくなってしまった島材には、先人たちが残した知恵や想いがたくさん詰まっています。その魅力を次の世代につなぎ、伝えていけるように活動している工房があります。

「かつて島の生活道具すべては島の木、島材で作られていた」

市街地から車で5分ほど走った先、前勢岳(まえせだけ)の麓にあたる小高い丘の上にある「うえざと木工」は、工房からは海が望め、周辺にはサトウキビ畑が広がる気持ちのよい場所にあります。

「うえざと木工」では、機械加工と手加工の両方の技法を用いて主に家具や建具などの注文を受け製作しています。

「うえざと木工」代表の東上里和広(ひがしうえざと かずひろ)さんは、製作に使うほとんどの木材が、県外か、もしくは海外から取り寄せたものであったことから、そのことにいつしか疑問を持つようになりました。

先代の、「かつて島の生活道具すべては島の木、島材で作られていた」という言葉がきっかけとなり、島材のことを、技術と共に熟知しているトマイ木工所代表の戸眞伊擴(とまい ひろむ)さんの工場に何度も足を運び、知識を継承できる環境の中、魅力ある島材の技術を学びました。

戸眞伊さんから教わった樹木の知識や歴史を元に、「島の木の図鑑」と「島の木の物語」を作り出版しました。

「KATARIGI」「語り木」

「うえざと木工」は、戸眞伊さんから受け継いだ知識と技術を元に、島材を現代の木製品としてよみがえらせるべく、島材の工房「KATARIGI」を立ち上げました。

「私たちは、木を『生き物』として捉えています。特に島材は生命力にあふれ、魂を感じます」

「木の質感や手触りは五感で楽しめるものですが、長く使うほどその味わいは深くなっていきます。愛情を込めて使えば使うほど、愛情を返してくれる。まるで、大切な何かを語りかけてくるように」

長く使うもの

「使い捨て」が多い現代のなかで「KATARIGI」では、「長くつき合うもの、愛すべきもの」「親から子へ、次の世代へと繫いでいく大切なもの」を製作しています。

それは例えば、家具や建具などの他に、それぞれの島材の木目や特徴を活かした器、箸置、壁掛け時計、命名板やフォトフレームといった様々な商品となって私たちの暮らしを彩ってくれます。

ハナクルバチ(箸置き)。クルバチとは八重山方言で枕のこと。塀などに用いられる沖縄独特のブロック、花ブロックをかたどったもの。

製作リーダーの西里洋樹(にしざと ひろき)さんは、小さい頃から祖父が木工所で働く姿を見て育ちました。

「自分もいつか、祖父の技術や想いを受け継ぎ、木工所で働きたいと思っていたので、ここに居るのは自然な流れでした。代々受け継いでいくものとして考えると、まずは、子どもたちに島材への興味を持ってもらいたいと思うようになりました。そのことを踏まえて、小学校の子どもたちを対象に、『木育』という活動を始める準備をしています」と真っ直ぐに語る西里さん。

「島材は使えるところは大事に全部使うようにしています。それでも出てしまう端材などは、市民に声をかけ、必要な人に販売したり、引き取ってもらったりしています。薪として使用する人もいれば、アクセサリーなどの展示用の台に使用する人もいます」

島の木の端材

石垣島の作家とのコラボ商品

島材を使った器や箸置きの他にも、石垣島の作家とのコラボ商品も製造しています。

石垣島のテキスタイルブランド「イチグスクモード」とのコラボ商品である名刺入れは、贈り物としても人気の商品です。

今後の目標

「いろんな人に島材を見て、触って欲しいです。それぞれの木によって、色も、形も、触り心地も、重さも違うということを実際に手にとって感じてもらいたいです。島の人には、自分たちの島には、こんな木があるんだよということを知って、暮らしの中で身近に感じて欲しいし、愛着を持って欲しいです。今後は、もっとプレゼントに活用できるような新しい商品の開発に力を入れていきたいと思っています」

プロフィール 西里 洋樹(にしざと ひろき)
1986年 沖縄県石垣島生まれ
木工職人だった祖父の背中を見て育つ。
大学卒業後、石垣島に帰郷し教育現場、出版社で働く。
祖父の影響から祖父が設立したうえざと木工へ2020年に入社。
自社ブランド「KATARIGI」の製作リーダーとして島の木の魅力を発信している。